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松田彬人パーソナル・インタビュー【後編】様々なジャンルを行き来して新しい挑戦を通じて遊び続けたい

前後編に分けて掲載中の、弊社所属の松田彬人へのパーソナル・インタビュー。後編となる今回は、現在の松田の仕事の中核となっている劇伴についての話題を中心に、今後挑戦してみたいことにも言及。様々な話題に触れるなかで、松田の音楽家としての姿勢も随所に見え隠れするインタビューとなりました。

【仕事のなかで松田が感じた、劇伴の魅力とは】

――前編では音楽的なルーツからアニメ主題歌を担当されるまでのお話をお聞きしてきましたが、キャリアを重ねられるなかで徐々にお仕事の比率の多くを占めるようになったのが劇伴です。劇伴では、歌モノとは制作のなかで意識されることに違いはありますか?

松田彬人 あります。まず歌モノって何を差し置いても、キャッチーだったり覚えられやすくないとダメ、というところがあると思っています。でも劇伴だと、覚えてほしいフレーズと耳についてほしくない箇所とがあって。音楽だけが耳に入ってくると、全然ストーリーに入っていけないじゃないですか? そういうところには、やっぱり大きな違いがあると思います。

――歌モノは絶対主役でなければいけないけど、劇伴にはときには物語を引き立たせるために存在する、といった役割分担の異なる曲もあるといいますか。

松田 あると思います。あと内容的なところで言うと、歌モノだとボーカルが居るので、他の楽器が目立ちすぎてもいけないじゃないですか? でも劇伴だと比較的自由に、自分で面白おかしく弦や管を使って曲を書ける。その作品のカラーを守っていれば、いろんなジャンルの曲を作っていけるんです。そういうところを通じて、劇伴のほうが音楽的に挑戦できそうな領域が広いように感じています。

――もちろん作品ごとに監督や音響監督からメニューの提示などもあるとは思いますが、その中での遊び幅の大きさを感じられている。

松田 ありますね。それに監督さんもガチガチに「こういう曲じゃないとダメ」と限定するような方よりも、ある程度幅を持たせてくれる方が多いんですよ。そんな方とのやり取りのなかで「このメニューから、こういう想像をしたんだね」とちゃんと汲み取っていただけると、やりがいは感じますね。中にはリテイクをいただいて何往復をするような曲もありますけど、そのときも「相手がなぜそういうことを言ってくるのか?」という理由がちゃんと見えたら、「そういうことか。じゃあ、こうしてみよう」とブラッシュアップしていけるので。

――では、お仕事の中心が歌モノから劇伴へと移っていったのは、そういった感覚もあって意識的に移行されていった結果なのでしょうか?

松田 そうなんです。こんなこと言うのもアレですけど、僕、歌物に少し苦手意識があって、、。

――えー!?

松田 もちろん歌モノもやりたい気持ちはあるんですけど、僕が頭の中で思い浮かぶフレーズって、たいてい歌じゃなくて楽器メロなんですよね。だから、例えば「クラリネットのフレーズだったらこういうふうに吹きたいよね」みたいに演奏する人に対しての共感が自然と先に立ってしまうので、劇伴のほうがスッと入っていける感じがあるんです。それに歌モノのメロを作曲するときに、鼻歌で作ったり、頭の中で誰か歌手が歌っているような感覚も出にくいんですよ。ただの苦手意識なのかもしれないんですけど……。

――やりたいこととご自身の中から湧いてくるものが噛み合っているからこそ、劇伴のお仕事も絶えないんだと思いますし。

松田 だといいんですけど……。ただ振り返ると、僕専門学生の頃ってめっちゃ声優さん好きで。声フェチだったんですよ。……はっきりとどなたのファンだったのか、今パッと思い出せなくて軽くショックなんですけど(笑)。でも「この人、絶対この音域でちょっと声ひっくり返るけど、そこがいいでしょ?」みたいなある種フェチ的なところがあって。そういう方に曲を書きたい……という気持ちが今よりも強かった時期は、もっと曲を書いていたような気がします。

――「この方と一緒にお仕事したい」という気持ちって、もしかしたら大事なものかもしれませんね。

松田 そうかもしれない……だから「この人の歌を聴きたい」という方がもっともっと増えたら歌モノが増えていくのかもしれないので、誰かのファンになるということが近々の目標のひとつになるのかもしれませんね(笑)。

――ちなみに余談なんですけど、ファンとして声優さんをみられていた頃って、よくCDも買われていたんですか?

松田 声優さんのCDだと、主題歌系よりもキャラソンのほうが多かった気がします。例えば『あずまんが大王』のCDとか……。

――ランティスさんの創業初期の頃ですね。

松田 そうですそうです。あの時期って、結構キャラソンでCD出てましたもんね。何かしらアニメが出たら、もうメインキャラ全員のCDを出していく……みたいな(笑)。今はもう出してもまとめてだったり、Blu-rayの特典だったりすることが多くなりましたけど。キャラソンって、やりたい放題じゃないですか?歌モノの中だと、主題歌は映像に合わせなきゃいけなかったりという制約もありますけど、キャラソンにはそれがなくて。曲中にセリフを入れたり、とんでもない音も要素として組み込んでみたり……(笑)。そういうところはリスナー側だった当時から、面白いなぁと思っていたところですね。

――その“自由度の高さ”というところに、いろいろな意味で魅力を感じられていた。

松田 たしかに、そうかもしれません。だから、自由度高くキャラソンを書けるとしたら、ぜひ今からでもやってみたいですね。突拍子もないテーマだったら、そのほうが楽しそうな気がします。……あ、“自由”といっても全く何の方向性もなく渡されると困ってしまうので、ある程度の方向づけだけはしていてもらえたら、とは思いますけど(笑)。

――さて、改めて劇伴のお話をお聞かせください。特に気を使う部分が多いのが、音楽モノの劇伴だと思います。松田さんも『響け!ユーフォニアム』の音楽を担当されているなかで、他の作品とは違ったこの作品ならではの意識や、工夫したポイントはあるのでしょうか?

松田 『ユーフォ』ではまず、最初の段階で「吹奏楽で出てくる楽器は、劇伴で使わないでおこう」という縛りがあったんです。そのとき、サウンドのカラーとしてはもう「ピアノと弦が主体で、ちょっとお上品に」というように固まったので、その方向でまとめるようにはしていました。あと音響監督からは「劇伴っぽくない、ちゃんとひとつのインスト曲として聴いて、いい曲がいっぱい欲しい」みたいなお話ももらいまして(笑)。自分にちゃんとできていたかどうかはわからないですけど、あまりシーンに合わせすぎないよう、いろんな展開のある曲にする……ということは意識していたような気もします。

――それは自由でもありますけど、同時に難題でもありますね。

松田 そうなんです(笑)。「サウンド感が全部一緒になってしまう」というところが、一番悩んだところで。しかも「期日までに仕上げないといけない」となると、余計に視野が狭くなってしまって(笑)。今改めて考えると「もっとできることがあったんじゃないか?」というところもあるし……そういうものは今後の“久美子3年生編”に取っておいて(笑)、いろいろ挑戦できたらなとは思っています。

――そういったことを感じられたのは、実際に曲と組み合わさった映像をご覧になったり、他の作品なども含めて松田さんご自身の経験値が上がっているからこそではないでしょうか?

松田 そうだと嬉しいんですけど……(笑)。でもたしかに、完成した映像を通じてインスピレーションを受け取ることはあったので、そういうものも含めて今後に活かしていきたいですね。

【今後挑戦したいことのコアにも、“自由”と“挑戦”が】

――そういった弦とピアノを中心した劇伴も作られる一方で、コミカルな作品では全く違う音使いをされているので、アニメファンの方はクレジットを見て驚くことも多いと思います。

松田 やっぱりああいうカラーの音で統一した作品に取り組んだ後には、今度はおもちゃ箱みたいにいろんなものが入った曲を作りたくなる時期もあったりして……ぶっちゃけると、反動だと思います(笑)。でもその反動って、『ユーフォ』に真剣に向き合ったからからこそ、別のジャンルでやってみたいことが溜まっていた……というところから生まれたものであって。その溜まった欲求を、また思いっきりぶつけているという感じなんですよ。だから、もしかしたらうまいこと仕事の順番が交互になっていて、なんとかなっているだけかもしれません(笑)。同じジャンルが続くと、やっぱりつらいですからね。

――同じジャンルの曲を求められても、作品自体はもちろん違うわけですからね。

松田 はい。似通いすぎないようにしなければいけない苦しさはありますし、違う作品なのに「前のあの作品っぽい」ってなっちゃうのも怖いですから。

――ただ、いろいろなジャンルを行き来するからこそ、ひとつのジャンルに取り組むなかで先ほど“反動”とおっしゃった別のジャンルでの意欲が溜まっていくわけですし、逆に取り組まれたジャンルでの経験値も積み重なっていくわけですから。

松田 そうですね。他の作家さんはどうなのかわからないんですけど、僕、得意なジャンルって自分でもよくわかっていないんですよ。例えば「フュージョンなら任せろ!」みたいなタイプではなくて、いろんな曲を広く浅く知っていきたいなと思っているんです。

――ということは、今まで挑戦したことのなかったサウンド感を求められる作品へのオファーが来たら……。

松田 あ、めちゃめちゃいいですね。そういうの(笑)。やったことがあるジャンルより、やったことのないジャンルのほうが絶対に楽しいと思うから、そういうところにもまたチャレンジしていきたいです。

――お話をお聞きしていると、歌モノでも劇伴でも松田さんが音楽として取り組んでみたいことって、ある程度の自由さがあってその中でどれだけ遊べるか……みたいなところのように感じました。

松田 そうですね。ただ、遊ぶにしても、楽典とかで言われている音楽的なルールも大切にはしたいなとは思っていて。やっぱり曲を聴いていて、理論を守ったほうがいいサウンドになるというのは実感しているので、それを守りながらも、突拍子もないことをやっていきたいんですよね。

――それは、一度あえて音楽的なセオリーを無視して曲を作られた経験あっての感覚なのでしょうか?

松田 うーん……破ろうと思って曲を書いたことはないですね。曲を書いていたら自然と守っちゃう、というところもあるんですけど(笑)。でも、あえて楽典のルールを破って新しいことをしても、それはあまりいいことには繋がらない気はしていて。そういうものとは違うところで挑戦していかないと……という気持ちはあるかもしれません。

――セオリーとして残るものには、それだけの理由があると。

松田 だと思います。ただ、いいものを作る過程でどうしてもルールが邪魔になるんだったら、そのときはルールを破ったほうがいいんじゃないかな……という考え方です。

――そういった想いも大事にしつつ、これから音楽作家として挑戦してみたいことって、今ありますか?

松田 無声映画をやってみたいです。効果音から、何から何まで音楽でやっていくっていうチャップリン的な……。以前菊谷知樹さんが『侵略!イカ娘』で無声映画みたいな回を1回やられていたのを観て、「すげぇいいな!」と思ったんですよ。ただ、これはたぶん待っていても絶対実現しなさそうな夢だと思うので、自分から何かしら企画してみないとですよね。まだストーリーとか、具体的な構想があるわけではないんですけど……ビジネスチャンスにできたら(笑)。

――ビジネスの部分もあるでしょうし、クリエイターとしても“音で惹き込む”ということに改めてトライしたいというか。

松田 はい。それもきっと、それもたぶん、1小節、2小節……という、普通の音楽から抜け出したいという一心から来るのかもしれませんね。ああいうものって、セオリーのようなものが全然ないから。何かアクションがあったらそれに合わせて急に音楽が出てきて、テンポがガラっと変わって曲が変わって……と、メドレーのようになっているところがありますし。あと話は全く変わってしまうんですけど、SF作品でも曲を書いてみたいです。

――たしかに、言われてみればSF作品での劇伴の御担当って、まだないですね。

松田 うん。ファンタジー作品の経験はあるんですけど、ガチガチのSFはまだなくて。でも僕自身、タイムトラベルとか宇宙を題材にした作品って結構好きで、視聴者としてもよく観るジャンルなんです。

――それはジャンル自体への興味と今まで挑戦していなかったものへの興味、二重の興味がありそうですね。

松田 そうかもしれません。それに題材としては、定番のオーケストレーションでもハイテクなものでも、どちらでも合いそうじゃないですか? だからどちらにも振れることも、いいとこどりもできそうな、やっていて楽しそうなジャンルだなぁというイメージがあるんですよね。……そういえば、『成恵の世界』もSFの世界観ですよね? OP映像でめっちゃ宇宙船が飛んでいますし、そんな要素にも惹かれたんじゃないかなぁ……そういうものも、全部が繋がっているのかもしれませんね(笑)。


Profile

松田彬人。作品の為だけの最高の音楽を追求。
ジャンルには捕らわれず、明るく軽快なポップスから重たく格好良い路線のロックまで、自分なりの解釈で制作。
繊細な曲からコミカルな曲まで、BGMだけではなく歌ものなど様々な音楽を丁寧に作りあげる。
2012年12月からアーティストネームの「虹音」から本名の「松田彬人」に戻しスタート。

インタビュアーProfile

須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年にフリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける。
Twitter:@sunaken

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