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神谷 礼パーソナル・インタビュー【後編】~歌モノでもインストでも垣根なく、いいと思うものは取り入れたい

前後編に分けて掲載中の、弊社所属の神谷 礼へのパーソナル・インタビュー。後編となる今回は作詞の話題にはじまり、そのなかで見えてきた神谷のもうひとつの音楽制作のルーツ的存在にも言及。さらには彼が今思っている、今後挑戦してみたいことも語ってくれています。

【早いときには1コーラス5分!? 神谷 礼の作詞について深掘り】

――前編の終盤ではサウンド面についてのお話を中心にお聞きしてきましたが、今度は歌詞を書かれる際のこだわりなどについてもお教えいただきたいです。

神谷 礼 歌詞については、言葉選びにこだわるのは大前提として、最近はわざとハマりを悪くしてみたりもしています。元々はハマりのいい歌詞を書いていたんですけど、ハマりが悪いほうが作家が書いた感じがしないというかアーティストっぽいように感じて、そうするようにしたんですよね。あと、ふざけた歌詞を書くのも割と好きなんですよ。

――アーティスティックなものとは逆に。

神谷 はい。家だとずっとふざけていて、真面目なことを全く喋らないような人なので(笑)。ワード選びも喋っている勢いで入れているような感じだったり、曲を作るときに同時にメロディに合わせて口ずさんでいたものをそのまま使ったりもしています。

――仮歌詞のように、肩肘張らずに頭に浮かんだものを口ずさんでいたら、「意外といいからそのまま提案してみよう」ということもあったり?

神谷 あるかもしれません。自分の曲だと歌詞めっちゃ早く書けて、1コーラスまでなら5分ぐらいでできちゃったりとかするんですよ。

――早い(笑)。

神谷 特にふざけられるアップテンポな曲だと(笑)、思いついたまま書いていっちゃうので。そういうときは言葉の深い意味まで調べずに書き上げて一旦提出しちゃうんですけど、自分だけでは良い悪いの判断というものはできないと思うので、「まずは世の中に投げてみる」という感じですね。ダメならダメで、リテイクやら修正の要望があるでしょうし。ただ、あまり響きだけを重視してもそれはそれで面白くなかったりするので、ちゃんと作品や求められるエッセンスも汲み取って。いい塩梅にできるよう、心がけながら書いています。

――両方の要素を兼ね備えているもので、最初に『ラピスリライツ』のSadistic★Candyの「Are Many Chance!!!」が思い浮かびました。

神谷 あの曲も、割と歌詞をサクッと書けちゃった曲なんですよ。なんでだろう……ちょっと頭のネジ、飛んでるところがあるんですかね?(笑)

――いわゆる“電波ソング”がお好きだったのでは?

神谷 『涼宮ハルヒの憂鬱』の「恋のミクル伝説」とか、アニメを観るなかで聴いたものはあるといえばあるので、潜在的には影響があるのかもしれないですけど……それよりは、アイドルソングかな? 2010年頃に、スターダスト系のアイドルが結構テレビにも出ていたりしたじゃないですか?そういう騒ぎ方みたいなものは、参考にしたり影響を受けていたりするかもしれません。

――ヒャダイン(=前山田健一)さんの作られた楽曲とか。

神谷 たしかに、世代的にも影響を受けているかもしれません。でもそれも、やっぱり「勉強」という意識で吸収したわけではなくて、単純にその時々で興味があるものを聴いて積み重ねていった結果なんです。だから逆に僕、恥ずかしながら、楽典を勉強するような座学みたいなものってほとんどやっていないんですよね。必要になったら勉強したいなという気持ちはあるんですけど、やっぱり基本的には興味が無いと続かないので(笑)、あえて興味がないことはやらないようにしています。

――その興味を少し広げてくれたのが、前編でおっしゃったBGMのお仕事だったのかもしれませんね。

神谷 そうかもしれないです。そこでやったことが歌モノに生きることも結構多いんですよ。最近だと、歌モノでもダンストラックなら「バシャー!」とか「シュゴウッ!」みたいな音を入れまくっていたりするんですけど(笑)、そういう要素が映えると体感できたのもBGMのお仕事のなかでだったんです。

――歌モノでもBGMでも垣根なく、いいものになると思ったところには、ハマっているものを取り入れていかれているんですね。

神谷 そうかもしれないです。BGMもただ単にバックトラックが鳴っているだけだとそれはそれで寂しいので、メインのメロ的なテーマをちゃんと置いたりして、歌モノみたいに作っていたりもするんですよ。特にゲームのBGMってメロディがちゃんとしているものが多いので、そういう意味でもあまり垣根なく作れるのかもしれないですね。あとは、ループしているようなサンプリング音源にすごくハマっていて、あれを重ねるのも好きになってきているので、そこからのアイデアも結構もらったりしています。

――逆にBGMなどで興味の幅を広げられていったなかで、「こういうのも面白いな」と思ったこともありましたか?

神谷 そうだなぁ……オーケストラ系の曲は、そもそも作ったことが全くなかったので、そういう意味では興味が前よりは増した気がします。

――やる前は、ハードルが高そうに見えていたりもしたけれども。

神谷 はい。もちろん簡単ではないんですけど、向き合ってみたら意外と抵抗なく取り組めた部分はあります。もしかしたらそれは、昔クラシック系の人のライブの手伝いをしていたおかげかもしれないですね。フルーティストの方がメインで、クラシカルな曲でギターを弾いたりとか。だからオーケストラサウンドを作ることにも、あまり抵抗がなかったのかもしれません。

【意識的に“新しい”を取り入れ続ける先に、神谷が見据えるものとは】

――ゲームのBGMが関係するお話が続いていますが、ちなみにゲームではなく、アニメの劇伴にはご興味はありますか?

神谷 もちろん携われるなら携わりたいという気持ちはありますけど……そんな甘い話ではないのかなと思って(笑)。劇伴作る方たちって、自然に流すのが技じゃないですか?おかげで作品に集中しちゃっているので、意識的に聴けてないんですよね。

ーーしかも、いざ劇伴だけを聴こうとしても、昔と比べるとサウンドトラックが個別にリリースされることも減りましたし。

神谷 そうですよね。なので、曲単体で触れることのできる機会が少なくなってきていることも、残念だなと思っているんですけど……。ただ、その中でも僕、菅野よう子さんの曲は割と印象に残っているかもしれません。僕、『攻殻機動隊』がめっちゃ好きなんですけど、後ろで流れている歌のイメージが残っているんですよ。だから割と、歌ありの曲のほうが印象に残っているかもしれないです。

――逆に、ご自身が劇伴を書けるとしたら、どんなジャンルのもので挑戦してみたいですか?

神谷 オーケストラよりは、ポップスっぽい音楽を使えるものがいいかもしれないですね。そうすると……無機質な音楽が合うような感じの作品も、いいかもしれないです。あとは、近未来。2045年頃が舞台のアニメとかがいいですね(笑)。

――ちょっと滅びかかってる世界の。

神谷 そうですね。打ち込み系をメインにして、やってみたいです。バンドモノとかも好きなので全然やりたいんですけど、打ち込みが入っているぶんには……という感じです。ただガチャガチャしすぎていると大変なので(笑)、音数少なめで割とタイトな感じのほうがいいですね。……ただこれも、今K-POPとかにハマってるのが大きいと思うので、何ヶ月後には全然違うことを言ってるかもしれないんですけど(笑)。なんだか僕、ずっと同じ環境にいられないんですよね。

――それは、動き続けていきたいというお気持ちから?

神谷 はい。引っ越しとかもめっちゃしますし、パソコンとか制作に使う機材も、毎年のように変わっちゃうんです。やっぱり根が普通の人間なので、普通にしていると音楽も普通になっちゃうような気がしているので、形から変えていって何かしらを変える……みたいな手法で、ギリギリやっているような感覚があるんですよ。

――いろいろな意味で新しいものやアンテナに引っかかったものを取り入れるということを、意識的にも無意識的にもやられているんですね。

神谷 そうですね。昔のものとかも好きだったりするんですけど、そこにこだわると囚われてしまいそうなので、興味があるものに熱量を向ける以外、変えられるものは意識的に変えていこう……みたいな感じです。

――お好きな昔のものというのは、レトロなもの?

神谷 レトロゲームもですし、音楽も最新じゃなくても好きかもしれないです。「いいな」と思った曲が5年ぐらい前の曲だったということも全然あるので、今ハマって聴いているものが、世の中的には最新とは限らなかったりもします。でも、そういう時代なのかもしれないですね。

――そもそも、供給される数も非常に多いですし。

神谷 そうですよね。逆にそう考えると、自分も何かを出し続ければ、将来的に何か引っかかる可能性はあるのかな?とも思っています。

――その他、作家として活動を続けられていくなかで、挑戦してみたいことはありますか?

神谷 実はあまりないんですけど……「海外に行きたい」というのはありますね。音楽的な意味よりも、生活的な意味合いが大きいんですけど……(笑)。でもやっぱり、海外の人に聴いてもらえるようなものは作りたいですね。音楽は言葉の壁を超えられるものなので、常にグローバルな思考も忘れずに、1曲1曲取り組んでいければと思っています。

――特にアニメというジャンルだと、コロナ禍前には外国での大規模なアニメイベントがたくさんあって、そこでのライブにアーティストさんがよく出演されていたので、コロナ禍後にはまたそういうものも増えると思います。

神谷 そうですよね。そういう意味で、きっとまだまだアニソンって楽しいと思うんですよ。やっぱりアニソンって作品に寄り添うことで、いろんなジャンルのものが生まれるのが面白いところなんですよね。そのなかでも僕は、アニメを観るなかで挿入歌のイメージというのもすごく強いので、挿入歌を作りたいというのもありますね。

――ご自身でも、結構印象深く残っている曲も多い? 神谷 あります。名シーンで流れてくる曲とか。そのためには作品全体のエッセンスと、そのシーンの大事なところを両方汲み取らなきゃいけないじゃないですか?だから今は主題歌よりも、挿入歌のほうが挑戦してみたい気持ちは強いですね。

【Profile】

神谷礼。中学生の時、兄の影響でギターを始め、高校の頃からバンド活動をスタート。
活動していたバンドが解散し本格的に作曲家を志す。
その後プロのアレンジャーのもとで曲作りを教わりながら、アイドルの曲やSEなどを制作し様々な音楽を学ぶ。
基本的に日本のロックやアニソンを軸とし、アニメやドラマ等からインスピレーションを得て音楽を創作。

【インタビュアーProfile】

須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年にフリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける。
Twitter:@sunaken

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